令和6年11月18日(月) 掲載

 妊娠中の妊婦さんへの歯科治療を行う場合は、十分な配慮をすればお腹の赤ちゃんへ影響はないと思われますが、母体のホルモンのバランスが崩れたり、身体及び精神面、生活面の変化が全くないとも言い切れません。
 基本的に、「妊娠中だからといって、歯の治療は行なってはいけない」という時期はありません。
 妊娠初期(8~15週)は、ストレスや過度な緊張がかかる歯科治療は、負担がかかり過ぎるため応急処置に留め、不安が少なく、比較的安心して歯科治療が受けられる妊娠中期の安定期(16~27週)に治療されることをお勧めします。
 また、妊娠後期(28週以降)は、お腹が大きくなって水平位(仰向けに寝ている状態)での治療は、腹部の血管を圧迫するため、この時期も応急処置に留め、出産後に治療を再開することを勧めます。
 歯科で処方されるお薬についても、妊娠中は配慮して処方されます。  我々歯科医は、「できることなら、妊婦さんに投薬することは避けたい」と考えます。
 ただし、妊娠中に「親知らずが痛くなった!」とか、「歯グキが腫(は)れた!」などの痛みを伴う場合には、我慢することがかえってストレスを発生させ、お腹の赤ちゃんに悪い影響を与えたり、お母さんへのリスクも配慮して、妊娠中や授乳中でも比較的安全に使用できる抗生物質(化膿止め)や消炎鎮痛剤(痛み止め)を、必要に応じて産婦人科の主治医と相談して処方することもあります。
 お薬による胎児への影響は、薬剤の種類・服用期間・服用時期などによって大きく異なりますが、催奇形(妊婦に薬物を投与したときに起こる胎児の奇形)が問題になるのは、妊娠初期だと言われています。
 また、治療の際に使用される局所麻酔も、妊婦さんに緊張やストレスを与えるため、必要最小限に使用を留めます。
 歯科領域で使用される麻酔薬は、通常の使用量で催奇形を認められることはありません。
 痛みを我慢する方が、お母さんのストレスになります。
 妊娠中のレントゲン撮影は、お口全体を撮影するパノラマX線写真や部分的に撮影するデンタルX線写真などがありますが、地球上で1年間に浴びる自然放射線量が、日本においては約2.3mSV(ミリシーベルト)です。
 これはデンタルX線写真で150枚以上、パノラマX線写真では100枚撮影することに相当しますので、防護エプロンなどを着用してお腹周りを保護すれば赤ちゃんへの被曝量は限りなくゼロに近づきます。
 授乳中の歯科治療ですが、心配すぎる必要はありません。 万全を期すのであれば、授乳・搾乳直後に薬を服用したり、人工乳に一時的に切り替えるなどの対応をお勧めします。 
 一般に薬剤が母乳中に移行するのは、2~3時間後と言われていますが、その間に蓄積された母乳を与えないようにした方がいいと思われます。
 ちなみに、薬剤服用の乳児への影響は、生後1~2か月が特に注意が必要となります。
 歯は大切なものです。
 ストレスなく治療できる時期や痛くなる前にすすんで健診を受けることをお勧めします。