口腔ケアの重要性

平成25年9月30日(月) 東愛知新聞掲載
豊橋市歯科医師会理事 鈴木誠一郎

我が国において今年、女性の平均寿命が世界一に返り咲き、男性も過去最高の平均寿命となりました。今後、世界に類のない高齢社会となっていくことは確実です。それにともない、要介護の高齢者は急増し、口腔内の清掃はおざなりにされやすく非常に不潔な状態になると予想されます。こうした要介護高齢者の生活の質の向上を目指した生活支援が必要であり、口腔領域では口腔ケアの普及が大変重要となります。要介護高齢者に沿った口腔ケアの重要性についてお話ししたいと思います。  
 口腔ケアの目的は、口の中を清潔にし、虫歯、歯周疾患を予防するとともに口腔機能を維持することにあります。また、生活の質の向上のみならず、誤嚥性肺炎(胃などからの逆流物や唾液を誤って気管に送り込んでしまい、そのなかの菌によって起こる肺炎)などの予防、全身の健康状態の維持、向上にもつながります。  
 近年、口腔内細菌と内科疾患との関連、咀嚼(食物を咬み、砕く)の機能と老化・認知症との関連など口腔環境がお年寄りの全身の健康と密接に関連していることが明らかになってきました。細菌の塊である歯垢は虫歯や歯周疾患の直接的な危険因子であると同時に、全身疾患を引き起こす原因の菌となる可能性が高いのです。口の中の菌が引き起こす全身疾患としては、感染性心内膜炎・敗血症、虚血性心疾患、誤嚥性肺炎などがあげられます。要介護高齢者においては健常者にとっては病原体とは言えない細菌によって上記疾患に陥ることがあります。特に日本人の死因の第4位となっている肺炎の中で誤嚥性肺炎はお年寄りの中でも上位の死因となっています。  
 口の中は37℃前後に保たれ、唾液が存在し、定期的に食物が通過するため細菌が繁殖する絶好の環境です。さらに高齢者においては口腔内自浄作用の低下(唾液の分泌の減少などによる)がおこり口腔内を清潔に保つことができなくなります。こうして繁殖した口の中の細菌が誤嚥されると、高齢者にとって致命的な誤嚥性肺炎となってしまいます。この予防策としては誤嚥を生じにくくすることも大切ですが、たとえ誤嚥してしまっても誤嚥性肺炎にならないように、口の中の細菌を取り除いて清潔にする、つまり口腔ケアを行うことが重要なのです。  
 口の中の基本的なケアとしては何と言っても歯ブラシを使用してのブラッシングです。特に就寝時は細菌が繁殖しやすいので、寝る前には念入りに歯磨きをしましょう。歯ブラシを使用してのブラッシングのあとは、歯間ブラシやデンタルフロスを使うとさらに効果的です。頬の内側や歯肉、歯のない粘膜はスポンジブラシを使うと良いと思います。こうした口腔ケア用品は口腔内の状態に適した物を使うことが大切です。分からない場合は歯科医師に相談し、指導してもらうのが良いと思います。  
 高齢社会を迎え、末永く楽しく食事ができ健康を維持していくためにも口腔ケアの重要性が増してくると思います。