歯列矯正はいつから始めればいいの?

平成27年1月12日(月) 東愛知新聞掲載

幼児期から学童期(成長発育期)の子どもたちの矯正治療をいつから始めたらいいのか分からないので、心配される方が多くいます。ある歯科医院で相談したらすぐに始めた方がいいと言われたが、別のところではまだ早いと言われたりすることもあるようです。
 現在この成長発育期の子どもたちの治療開始時期に関して、実際に矯正治療にたずさわっている歯科医(矯正専門医だけでなく、小児歯科医なども含めて)の中で共通の見解が得られているとはいえないのが実情です。また、治療のゴールをどこに設定するかによっても、大きく異なります。

 一般的に矯正治療を行う先生のなかで、成長発育期の治療開始時期に関する考え方は大きく分けて2通りにわかれます。乳歯の時期から始める場合と、永久歯に萌え変わってから始める場合に分けることができます。

1 幼児期の乳歯の歯並びの時期から積極的に行う

 できるだけ早く始める治療は、ひどくならないうちに早めに治しておこうという早期発見早期治療の考え方と相通じるものがあり、たいへん受け入れられやすいのですが、歯並びやかみ合せの不正は通常の病気とは異なり、一見改善したように見えても、生まれもった特徴(例えば、受け口と呼ばれる下顎前突など)が成長とともに出現してくる場合もあり、早く始めただけでは対処できない場合が多くあります。
 2才ごろから矯正装置を入れたり、10年以上も装置をつけ続けていてもなかなか改善がみられない極端な場合もある一方、ちょっとした治療で、ほぼ正常に戻ったケース、また、患者さんによっては永久歯の前歯のはえ替わりの時期に自然に治ってしまったなど、低年齢から急いで矯正治療しなくてもよかった場合などもあります。
 長期間治療してもうまく治らなかったり、アゴの関節に症状がでたりすることも多く、さらに子どもが社会生活を営んでいるなかであまりに長期の治療は大きな負担となります。  
 各々の患者さんの将来に渡っての成長変化を見極めた(予測した)うえで、個々の状態や状況に応じてその時期に必要な治療をすることで、永久歯の歯並びやあごの成長発育を積極的にコントロール(成長発育の促進や抑制)しようとすることをどの矯正医も目指しているものではありますが、現実的には、極めて精巧で複雑な成長発育を人間の手で簡単にコントロールすることは困難です。

2 永久歯が萌え揃ってから始める

成長がほぼ終了した段階で治療を行うため、今後の不確定要素が少ないため、治療が2年から3年の期間で集中して行えます。また、矯正治療をする目的が本人も理解できるため、矯正治療に協力を得やすいことも大きなメリットです。  
 ただし、顎の積極的な成長発育のコントロールを出来る時期は終了しているため、歯並びの悪さの種類や程度によっては、まれに、顔貌そのものの変化はあまりない場合もあります。
 「いつ始めたらいいの?」という問いに対して簡単にはお答え出来ないのですが、逆に言いますと、その判断は極めて難しくて様々な要素を含んでいることになります。実際の臨床の場では、多くの要素を熟考したうえで患者さんと相談しながら決めていくことになります。
 実際に治療される場合は、担当される先生とよくご相談のうえで、成長後の好ましい永久歯の歯並びやかみ合わせを目標にして、将来的な成長の予測のもとに、現時点で必要なこと、可能なこと、その内容と期間、費用、治療そのもののリスク等を充分に検討されたうえで、「いつ始めるのがいいのか」を決めていかれることをお勧めします。 矯正治療は、何歳になったから始めなくてはいけないというものではありませんし、ましてや初めて受診されたときが治療開始のときなどでは決してありません。  

 いかに早く治療を早く始めるかよりも、かかりつけの歯科医に早い段階で虫歯予防と共に、噛み合わせの管理をしてもらうことのほうが重要でしょう。