歯科衛生士業務控 エピソード2

平成27年7月20日(月) 東愛知新聞掲載

前回に続き今日も豊橋市内の某歯科医院の日常に起こった印象深い一コマを、勤務する歯科衛生士の私がご紹介し、歯科衛生士ワールドの一面に触れていただきたいと思います。歯科衛生士はまだまだ人出不足、若い女性が職業として興味を持つきっかけになればうれしく思います。仕事に興味を持った方は豊橋歯科衛生士専門学校のオープンキャンパス(7/23、7/30、8/20開催)に是非ご参加ください。  
 Kさんはいつも飛び入りで来院する初老の男性、予約が詰まっている時などは待ち時間も多くなるのですが、そうするとイライラしている様子が待合室から診療室まで伝わってくるような患者さんです。一度電話で予約することをご提案しましたが、仕事が忙しいからと却下されました。定期的に歯周病のメインテナンスで通院されるので、だいたいスケーリング(歯石除去)が診療の中心になり、必然的に歯科衛生士の出番となります。歯科衛生士の業務の三本柱は「歯科予防処置」、「歯科診療補助」、「歯科保健指導」ですが、予防処置に分類される歯石の除去は、歯科衛生士業務のメインと言っていいほど重要な仕事です。  
 Kさんは歯石除去時の器具の振動が苦手なようで、時として「痛い!」と大声を上げたり、処置している私の手を払ったりするので歯科衛生士としてはやりにくい患者さんです。年齢的に私が担当することが多く、処置時はいつも緊張して患者さんの肩に力が入っているのがわかりますし、診療後にはいつも汗をびっしょりかいて苦虫をかみつぶしたような顔でため息をついて帰って行かれます。
 歯科衛生士になって二十年、いささか歯石除去のテクニックに自信を持っていた私ですが、この患者さんだけには苦手意識があり自信も揺らぐのでした。  
 そんなKさんへの印象が変わったのは、ある別の患者さんの来院がきっかけでした。Kさんからの紹介だというその新患の方は、「歯科治療が苦手で長い間受診していませんが、Kさんから、自分も歯科治療が嫌いだが先生もスタッフも親切で優しいからここに通っていると聞いて受診しました」と言っていました。てっきりKさんからあまり良い印象を持っていただいていないと思っていた私はびっくりし、そしてなんだかうれしくなりました。Kさんが緊張するのは単に歯科治療が怖かっただけかもしれませんし、予約なしで来院されるのは決死の覚悟をしてそれが鈍らないうちに来るせいかもしれません、そんな気がしてきました。  
 そこで私はKさんへの診療スタイルを変えることにしました。基本姿勢は歯科治療を嫌がる子供の診療と同じです。子供の扱いには少々自信があります。Kさんには大変失礼な話かもしれませんが、私の苦手意識はこれで克服できそうです。大切なのは患者さんの治療に対する恐怖心や苦手意識に寄り添う心だったと少し反省もしています。