高齢者における歯根面う蝕

平成27年9月21日(月) 東愛知新聞掲載

今から20年以上前の歯科の専門誌に、「近年のアメリカでは、日本人と比較 して、特に高齢者における残存歯数(口の中にある歯の本数)が多く、歯根面う蝕 (歯肉は収縮して、歯の根が露出して、その部分がムシ歯になること)が深刻な問題となっている」という記事が掲載されていました。
 その当時の日本では、「歯根面う蝕?」あまり聞きなれない言葉で、大学時代の歯科保存学(ムシ歯の治療・歯周病の治療・歯の中の神経の治療などを総称した学問を歯科保存学と言います)のカリキュラムの中でも、あまり注目されていな いう蝕(ムシ歯)でした。
 ところが最近、歯根面う蝕と思われる「ムシ歯」が原因で、歯を抜かなければならないほど重症で壊滅的な破壊を受けた歯と遭遇するケースが多くみられます。
 確かに私が開業した当初の高齢者の方の治療は、グラグラの歯を抜いて義歯を作ったり、修理することが多かったと記憶しています。
 かつてのアメリカと同じように、高齢化が進む日本では、歯科医師会が提唱した「8020運動(人生80年時代。80歳で20本以上の歯を保とう!)」が強力に推進され、その結果 高齢者の残存歯数が飛躍的に高くなり、それまではあまり見られなかった歯根面う蝕も増加したことが伺えます。
 その歯根面う蝕について詳しく説明したいと思います。
 歯根面う蝕は、書いて字の如く「歯の根の表面にできるムシ歯」のことです。
 基本的に、歯の根の部分は歯グキに覆われていて、目で見ることはできません。当然のことですが、ムシ歯になることもありません。
 しかし、何らかの原因で歯の根が露出すると、その部分がムシ歯になり、特に高齢者の方に多く見られます。
 特徴としては、歯の周囲にぐるりと帯状に黒や茶褐色に見られることが多く、治療することがとても難しいムシ歯です。
 ムシ歯が歯グキに隠れて見つけにくいものもあり、進行しても痛みを伴わないものもあり、気が付かないうちに歯が根本から突然折れることもあります。
 歯を支える根にできるムシ歯ですので、最悪な場合は、抜歯になります。
 歯根面う蝕が出来る原因は、歯周病や誤ったブラッシング(歯磨き)、加齢や生理的に歯グキが根元方向に下がり、露出した歯の根の部分に追い討ちをかけるように、誤ったブラッシングによって歯の根が傷ついたり、プラークが付着したり、口の中が乾燥して自浄することが困難になると、歯根面ムシ歯が発生しやすくなります。
 治療方法は、普通のムシ歯の治療と同じですが、歯グキに近い位置にあることや、大きさや深さによっては、通常のムシ歯治療よりも、経過が悪いことが多くなります。また、ムシ歯の状態によって、見た目は大丈夫な歯に見えても、場合によって、抜歯しなければならないことともあります。もし、痛みなどの症状がなければ、ムシ歯の進行止めを塗って、フォローすると方法もあります。
 どんなムシ歯でも原因の多くは歯の汚れ(プラーク)です。正しい歯磨きを身につけることが歯根面う蝕の予防の第1歩です。
 年齢と共に口の中は変化し、歯根面う蝕になる確率は高くなりますが、定期的に健診や治療終了後のメンテナンスを受けていれば、早期発見・早期治療で、簡単に対処することが出来ます。
 「最近、歯が長く見えるようになった」、「ムシ歯もないのに水が凍みる(知覚過敏)」さらに「歯グキとの境目に着色がある」などが見られたら、一度お近くの歯科医院で相談して下さい。