歯みがきと歯みがき剤について

平成28年9月26日(月) 掲載

みなさんは1日何回歯みがきをしていますか?
 朝食後と就寝前の1日2回、それとも毎食後の3回でしょうか。
 実は、日本人の歯みがきの勤勉さは、国際的にみても、たいへん努力家の優等生なのです。
 歯みがきを日常的にしている人が90%以上もいるという統計が出ています。
 しかし、昔から優等生だったわけではありません。
 いまから数十年前、3・3・3運動という歯科の啓発運動が行われました。
 1日3回、3分間、食後3分以内に歯をみがこうというキャンペ-ンです。
 その頃の日本人は、朝起きぬけにトイレと歯みがきでサッパリし、そのあと朝食を食べていました。
 寝る前に歯をみがく習慣がなかったため、口のなかがきれいなのは、朝の歯みがきから朝食を食べるまでの数分間しかなかった訳です。
 この現状を変えなくてはと始まったのが3・3・3運動で、食後や1日数回の歯みがきを定着させたという功績はとても大きなものでした。
 歯みがきの習慣が国民に定着するにつれ、歯みがき剤の重要度が増し、消費量は当然ながら急激に増えました。
 それだけでなく、昭和の初期に主流だった粉状の歯みがき粉は、ビン入りの半練り歯みがき剤へと変わり、その後、現在のチュ-ブ入りのペ-ストとなりました。
 また、その形状だけでなく、中身も劇的に進化しました。
 粉や半練り状の歯みがき剤は、その成分のほとんどが研磨剤で、クレンザ-のように粗いものでした。
 これで1日に数回も歯みがきをすると、大切な歯は擦り減って削れてしまいます。
 そこで現在の研磨剤は、粒子が丸く加工され、歯を傷めない硬度でありながら、少量でプラ-クや着色が効果的に除去できる品質を備えています。
 また、発泡剤や香味剤も、泡立ちや清涼感が強すぎると少しの歯みがきで、しっかりみがいたつもりになってしまうため、低発泡・低香味へと改良されています。
 こうして食後や1日数回の歯みがき習慣が定着し現在に至っている日本ですが、その努力が報われているかというと、これがいまひとつなのです。
 以前は、ムシ歯や歯周病などで失う歯は、他の先進国に比べて少なかったのですが、最近逆転されつつあり、日本にとって深刻な問題となっています。
 その大きな要因は、ムシ歯を例にとると、フッ素利用の遅れが挙げられます。
 予防先進国では、歯質の強化や再石灰化の効果が高いフッ素が、歯みがき剤 はもちろん、水道水や錠剤による摂取など、さまざまな方法で盛んに利用され、 ムシ歯予防に大きな成果をあげています。
 日本では、目下のところ歯みがき剤を使うフッ素利用が一般的に行われています。薬用成分としてのフッ素には、歯質強化の効果が高まるようにイオン化しやすくなるなど、徹底的に工夫が加えられています。
 このように、フッ素利用が遅れているとはいえ、こうしたフッ素入り歯みがき剤を上手に使って、毎日一定量を口のなかに供給すれば、ムシ歯予防に多大な効果があります。
 ただし、使い方にはコツがあります。
 できるだけ長く有効な濃度のフッ素が口のなかに残っていることが重要なポイントになります。
 歯みがきのあとの口の中のフッ素濃度は、唾液によって薄まっていきます。
 しかし、有効フッ素濃度0.05ppm~0.1ppmというごく微量のフッ素が、 次の歯みがきまで口の中に長くとどまっていれば、ムシ歯になるリスクが減り ます。
 子供用の歯みがき剤のフッ素濃度は500ppmぐらい、大人用は950ppmぐらいの歯みがき剤が多く市販されています。
 よって、歯みがき後のうがいは、ていねいにしすぎると、口の中のフッ素濃度が下がってしまいます。大人の場合、コップ1/3程度の水を使って2~3回の簡単なうがいにとどめます。
 就寝前の歯みがきで、有効濃度のフッ素が口の中に残れば、唾液に流されることも少なく、朝までフッ素が効果的に作用します。
 進化した歯みがき剤を上手に使って、大切な歯を守ることを、ほんの少しの努力ですが、継続すればその効果が必ず実感できると思います。