歯を削らないムシ歯治療?

平成28年10月3日(月) 掲載

ムシ歯の治療と言えば、ムシ歯の部分を削って詰め物や被せ物で治すと思っている方が多いのではないでしょうか?
 確かに従来の方法では、機械的に健康な部分を少し含めて削って治すという方法が一般的でした。
 しかし最近では、痛みも少なく、殆どムシ歯も削らずに治療する方法ができるようになってきました。
 今回は、その代表的な治療方法である「3Mix-MP法」「レーザー」「薬液による治療」について説明します。
 まず、「3Mix―MP法」です。
 今までは、ムシ歯の部分を除去する場合、ムシ歯の部分とその周囲のムシ歯の感染が疑われる健全な部分を少し含めて歯を削って治療していました。
 ところが、3Mix―MP法はムシ歯の部分を全て削り取らずに、抗生物質など3種類の抗菌剤を混ぜた薬剤をペースト状にして詰めて、内部を殺菌することによって、ムシ歯を治してしまうという方法です。
 ムシ歯の部分に薬剤を詰めて蓋をすることで、歯の奥に入り込んだ細菌が殺菌され、ムシ歯の進行が止まり痛みもなくなります。
 また、ムシ歯でとけてしまった組織以外は取る必要がないので、健康な部分を削る時のような痛みも殆んどありません。
 そして、完全に殺菌することができれば、ムシ歯で残した部分はカルシウムが沈着することにより徐々に硬くなって健康な歯に戻ります。
 但し、ムシ歯の大きさや形によっては、初めに歯を削る必要がある場合もありますし、歯の中の神経に細菌感染により炎症が生じ始めた歯は従来通りの治療法となります。
 次に紹介する方法は「レーザー治療」です。
 ムシ歯の部分に、『Er:YAG(エルビウム・ヤグ)レーザー』を当て、光のエネルギーによりムシ歯を蒸散させる治療法です。
 主に、初期のムシ歯(C1)の段階に適用され、痛みや不快感は殆んど感じず、音もあまりしないため、快適に治療を受けることができます。
 また器械で削るときのような振動もまったくありません。
 ムシ歯になった部分に、レーザーが当たることによりムシ歯が取り除かれて歯の表面が溶岩のように変化します。
 また、レーザー自体に殺菌力があり、ムシ歯の原因となるミュータンス菌などを取り除くことができます。
 更に、レーザーで治療した所は、歯の表面が瀬戸物のように硬くなり、ムシ歯が再発し難いというメリットもあります。
 しかし、正確に歯を削ったり細かい形をつくることができないので、器械で削るのに比べて時間がかかるという欠点があります。
 最後は「薬液によるむし歯治療」です。
 この方法は特殊な薬液(弱い濃度の次亜塩素酸ナトリウム溶液とアミノ酸などの溶液を混ぜた薬剤)を象牙質のむし歯の部分に塗布することにより悪いところだけを選択的に軟化させ、あとは特殊な器具を用いて除去する方法です。
 ムシ歯の悪い部分だけを軟らかくすることができるため、必要以上に歯を削ってしまうことは殆んどありません。健康な部分をより多く残せるため、神経の近くまで進行している深いムシ歯でも、従来ならば神経をとらなければならなかったものでも、神経を残して治療することができる可能性が高くなります。
 また、痛みも極めて少ないため、神経に近いムシ歯であっても、麻酔を使用せずに治療することが可能な場合もあります。
 ただしこの薬液は、歯の表面のエナメル質の下の象牙質のみに作用するため、歯の表面(エナメル質部分)のムシ歯が小さい時などは、薬液が上手く塗布できず、また器具が入らない場合などは、あらかじめ従来の切削器具を用いて歯を削らなければなりません。
 更に、ムシ歯が神経にまで達している場合は、使用できないことがあります。
 この他にも、歯を削らないムシ歯を治療する方法はありますが、これらの治療法はできるだけ健全な歯質を保存しよう、痛みを伴わない快適な治療をしよう、神経を残そうという共通の考え方に基づいています。その結果、できるだけ多くの歯を残すことにより生活の質(QOL)の向上を図ることが目的です。
 もちろん究極の目的はムシ歯そのものをなくすことです。
 ムシ歯治療に対する概念は、従来から何ら変わった訳ではありません。
 技術の進化により従来できなかった治療法が、このように可能になってきています。
 しかし、今回紹介した治療法が全てのムシ歯で可能というわけではありません。従来の治療法が優先される場合も十分考えられます。
 また、保険の適用外となっているため、医院によって料金も異なり、全ての歯科医院で処置が可能というわけではありません
 希望されるときは、まずかかりつけの歯科医院でご相談され、十分な説明を受け、あなたにあった最適な治療法を選択するようにして下さい。