「歯科と金属アレルギー」について

令和2年9月28日(月) 掲載

先日、私の診療所に50代の女性Aさんが来院されました。
 Aさんは、手先の皮膚に発疹ができ、近所の皮膚科にいったところ、「アレルギー性接触皮膚炎(金属アレルギー)」と診断されました。
 それ以来、身体に付けている貴金属類、指輪やネックレス等の装飾品を外して生活をされていましたが、皮膚炎は治らず、皮膚科の先生から「口の中のムシ歯の治療に使用されている金属が原因になっているかもしれない!」ということで、歯科への受診を勧められました。
 歯科における「アレルギー性接触皮膚炎(金属アレルギー)」は、ムシ歯の治療や歯の抜けた部分を補う義歯やブリッジなどに使われる歯科用金属によって、顔、手、足などに皮膚炎が発症することをいいます。
 早速、Aさんの口の中を確認したところ、奥歯には冠や詰め物が、前歯には金属をベースにした白い被せ物が半分以上の歯が治療されていました。
 またレントゲン検査で、被せた歯の土台にも金属が使われていることが判明しました。  
 しかし、これらの治療された金属が、本当に「金属アレルギー」の原因なのかどうかを判断しなければなりません。  
 歯科の治療に用いられる金属は、あまり単体で使われることはありません。  複数の金属が混ぜ合わされ、合金として使われています。  
 Aさんの口の中に使われている金属も、歯科で最も多く使われている「金銀パラジューム合金」というもので、成分も金、銀、パラジューム、銅、亜鉛、スズ、インジュームなどが含まれる合金です。
 その他に歯科で使われている金属には、白金加金(プラチナ)、銀合金、ニッケルクロム合金、コバルトクロム合金、チタン合金などの合金が、義歯や詰め物・被せ物の金属として使われています。
 そして、Aさんに発症している「金属アレルギー」が、歯科用金属の内、どの成分の金属に反応しているのかを調べる必要があります。
 それには、皮膚科などでパッチテストを行うことで、どの金属イオンにアレルギー反応を示しているのかを特定することが出来ます。
 Aさんの歯に装着されている金属は、「金銀パラジューム合金」と「銀合金」が殆どでしたので、その合金の成分を中心にパッチテストを行いました。
 結果、2つの歯科用合金に含まれている、「亜鉛」・「インジューム」・「スズ」・「銀」などが陽性に反応して、それらが「金属アレルギー」の原因であることが判りました。
 現在、アレルギー反応を示した金属成分の含まれている冠や詰め物を取り除き、プラスティック(合成樹脂)系や陶材(セラミック)系の材質のもので、歯の土台や被せ物や詰め物に置きかえる治療を行っています。
 こうした、歯の治療に金属を用いないことを、「ノンメタル」、「メタルフリー」などと呼んでいます。
 Aさんのように、歯科治療を行った若い頃は、金属に対して大丈夫だったのに、時間の経過と共に、免疫力や耐久力(持久力)などの低下に伴い、金属アレルギーを発症するケースが増えてきています。  
 衣服や装飾品により「アレルギー性接触皮膚炎(金属アレルギー)」を起こすケースは結構ありますが、こうした物に配慮しても治らない場合は、口の中に治療した金属が入ってないか確認してみて下さい。  
 歯科治療に使われた金属も原因の一つとなる可能性がありますので、ご心配の方は、かかりつけもしくはお近くの歯科医院でご相談下さい。