歯のQ&A

平成29年6月4日(日) 東日新聞掲載

現在妊娠6ヶ月です。最近、歯磨きのたびに歯茎から出血します。妊娠前は出血することはほとんどありませんでした。歯磨きは気をつけているつもりですが、足りないのでしょうか?
(20代女性、団体職員=豊橋市)

[回答者]
豊橋市歯科医師会  監事  伊藤 雅則
 妊娠中は、女性ホルモンが亢進することによって、口の中に様々なトラブルが発生しやすい期間です。
 つわりや新陳代謝障害、体温の上昇等に関連して、だ液に粘り気が出てきたり、口の中も酸性が強くなって、1回の食事量が低下することで食事を分割して摂ったりして、プラークコントロールもおろそかになり、プラーク(歯垢)の付着やムシ歯菌の増殖から、ムシ歯に罹患するリスクが妊娠中は高くなります。
 また、妊娠中の歯科医泣かせな疾患は「親しらず」です。  
 特に、歯グキの中に埋まっている(埋伏歯)歯の周囲の歯グキが炎症を起こしやすくなります。
 妊娠中は母子への影響を考慮して、抗生剤や鎮痛剤等の薬の処方にも注意を払わなければなりませんし、抜歯等の処置に対しても安定期という制約があり、妊婦の方もストレスが溜まります。
 そして、今回のタイトル「妊娠中の歯グキからの出血」です。
 妊娠中は、女性ホルモンのバランスが変化し、歯グキが腫れる「妊娠性歯肉炎」が、妊婦の30%程度の方に、妊娠2ヶ月頃から発病することがあります。  特に、初めて妊娠された方に多いようです。
 前述のように、妊娠中は間食が増え、その結果、口の中の衛生状況が悪化する傾向にあります。
 「歯肉炎」はその名の通り歯肉に限局した炎症ですが、プラークコントロールがままならない妊娠中は、口の中のケアも疎かになり、「歯周炎(歯槽のうろう)」に発展してしまうと、歯グキだけではなく、歯を支えている周囲の組織(歯根膜や歯槽骨)も悪くなりかねないので、妊娠前よりも歯磨きがとても重要になります。
 この「妊娠性歯肉炎」は、出産後は消失してしまいますので心配はいりませんが、治るからといって、何もしないのは駄目です!
 歯グキからの出血は、歯磨き(ブラッシング)で軽減できます。
 柔らかめの歯ブラシを用いて、歯グキをやさしくマッサージするように磨いて下さい。
 つわりが酷く、思うように歯磨き(ブラッシング)ができない時は、うがい薬などを用いて口の中を清潔にしておくことも重要です。
 状況によっては、「妊娠性の口臭」や「妊娠性の口内炎」が発生することもあります。
 また、歯周病(歯肉炎&歯周炎)に罹患した妊婦は、そうでない方と比べて37週以前の早産や、2500㌘以下の低体重児出産の危険性が7・5倍も高くなるという衝撃的な報告があります。
 妊婦の皆さんにとって、口の中のケアはとても大切です。


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