歯のQ&A

令和6年月22日(木) 東日新聞掲載

よく「硬い食べ物はアゴを育てる」と聞くので、1歳代から生野菜や煮干しなどを与えていますが、これで良いのでしょうか?
(30代女性)

[回答者]
豊橋市歯科医師会・村田起一
 ご質問にある、「硬い食材を子供にかませる事でアゴが育つ」という説が存在している事は承知しております。この昔からの説の通り、お子様に実行されている方々も少なからずお見えになります。また、海外から0歳児に野菜の塊を食べさせる方法も入ってきております。ご質問の「アゴ」というのは恐らく下顎の事を指して見えると思いますが、ご存じの通りアゴには上顎と下顎があって、上顎、下顎の発育する仕組みは同じではありません。が、今回のご質問が食材であるので、あえて上下顎の違いには細かく触れずに説明して参ります。
 結論から述べますと、乳幼児期に硬い食材を食べさせることではアゴは発育しません。逆にアゴと周囲構造の発育に対して悪影響を与えてしまいます。以下、いくつか大切なポイントをご説明致します。
 ①乳歯は2歳半から3歳で奥歯が生えそろう  当然ながら歯が無ければ、少し歯ごたえのある食材や線維質すらかむ事はできません。
 ②筋肉・骨格が未熟で弱い時代  特に乳歯が生えそろう3歳頃までは、かむ力が非常に弱く、また、重い頭、体を支える筋肉も弱い時期です。歯突起と呼ばれる頭蓋を直接的に支える頚椎(けいつい)から出る突起は、コンニャクのごとく軟らかいそうです。こんな未熟状態の時期に、潰せない硬い食材を与えられてしまった場合、強く縦方向に歯槽部でかむ習慣がついてしまい、その結果、頚椎等に大きな負荷が掛かる事は想像できると思います。この習慣的な大きな負荷は発育に対して確実に悪影響をもたらしてしまいます。
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 乳歯がほぼ生えそろう3歳頃まではどんな食材が良いのか?
 乳臼歯が全て生えておらず、筋肉・骨格が未熟な時代は、舌を上顎の裏側に押し付けて、すり潰しができる食材が適しています。お粥(かゆ)、野菜ペーストから始まり、徐々に体幹が安定してくれば、野菜ソテーや、肉団子、軟らかく煮たスープ内の野菜等は良いメニューでしょう。この舌によるすり潰しの動きができれば下顎は自然と縦ではなく横方向に動きます。この動きでは顎関節や頚椎等に対して負荷は掛かりません。そして舌のすり潰しと下顎の横の動きは、下顎骨を発育させる大きなポイントの一つなのです。この時期に硬い食材を与えてしまい縦に強くかませるか、舌ですり潰しのできる食事を与えて横方向のすり潰し咀嚼(そしゃく)をさせるかは、その後の骨格成長、そして結果として歯並びに対してもとても大きな影響を及ぼすのです。
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 余談ですが、大人でも硬い食材を好んで食される方々は見えます。奥歯は臼歯と呼ばれるように、文字どおり臼(うす)の形態をしています。臼歯はすり潰すために存在する歯なのです。とは言っても実際には臼歯でも少なからず縦方向にかんでいます。しかし、特に硬いフランスパン、スルメ、氷、飴玉、冷やしたチョコなどを強くかむ習慣は歯周組織のみならず、顎関節や筋肉にダメージを与えてしまいます。大人でもあまりに硬い食材を習慣的にかまない事が肝要です。
 今回は発育と食材との関係をテーマとしてご説明しました。食材以外にも、体の骨格やアゴの発育を大きく左右してしまう重要な育児ポイントが沢山あるのですが、また機会がありましたらお話いたします。